
「明日から本気出す」
あのドラッグストアでの固い決意から、早くも3ヶ月が過ぎようとしていた。
真由の部屋の片隅には、あの日に購入したプロテイン(ココア味)が、3回だけ使われた状態で寂しそうに佇んでいる。
そう、真由は「決意するプロ」ではあったが、「実行するアマチュア」だったのだ。
最初は頑張った。オートミールを米化して食べ、YouTubeを見ながら宅トレ…、そう、明日の自分を信じて…。
しかし、3日も経つと脳内の悪魔が囁きはじめた。
「今日はいっぱい歩いたから、実質カロリーゼロでしょ?」
「仕事でストレス溜まったし、ご褒美がないと明日生きられない」
気がつけば、プロテインの横にポテトチップス(今日は九州しょうゆ味)の袋が堂々と鎮座する日々に戻っていた。
「まあ、急に痩せるとリバウンドするって言うしね……」
と、再びぬるま湯に浸かりかけていた真由に、第2の衝撃が走る。
第2の衝撃…とは?
それは、高校時代の友人たちのSNSだった。
久しぶりにアップされた集まりの写真。そこには、かつて自分と同じように「ぽっちゃり同盟」を組んでいたはずの友人が、見違えるほどシュッとして、タイトなノースリーブを着て笑っている姿があった。

「嘘……あの子、いつの間にこんなに綺麗に……!?」
あの時の中年男の言葉がフラッシュバックする。「……チッ、デブだな」
『私、このままでいいの? 一生、言い訳と妥協の服を着て生きていくの?』
他人に言われた屈辱よりも、「自分だけが現状維持(という名の衰退)に取り残されている」という焦燥感が、真由の背中を強烈に押し流した。
しかし、真由は自分の「意志の弱さ」をすでに嫌というほど知っていた。
「自分でダメなら、お金と環境の力を借りるしかない」
給与明細と貯金通帳を睨みつけ、真由はついに人生最大の清水の舞台から飛び降りる決断をした。
向かった先は、あの黒と金の重厚なロゴ。「結果にコミットする」で有名な、RIZAP(ライザップ)の門を叩いたのだ。
結果にコミットした結果…
【真由、強制モードへ移行】 入会した瞬間、真由の生活は一変した。 そこは、言い訳の通用しない「プロの監視下(愛のムチ)」だった。
毎日の食事は写真を撮ってトレーナーに報告。
「真由さん、このお肉は素晴らしいですが、タレではなく塩にしましょう!」
「あ、コンビニの春雨スープは意外と糖質が高いのでNGです!」
容赦のない、しかし的確すぎるフィードバック。これまでは「これくらい、いっか」と誤魔化していたマシュマロの隙間が、徹底的に埋められていく。
週2回のパーソナルトレーニングは、まさに自分との戦いだった。

「あと2回! いけます! 真由さん綺麗になってますよ!!」
限界を迎えてプルプル震える筋肉に、トレーナーの熱い声が響く。大金を払っているという元を取りたい根性と、マンツーマンで並走してくれる安心感。自分一人では絶対に妥協していた領域を超え、真由はひたすら汗を流した。
そして、コースが終了した運命の日。
鏡の前に立った真由は、自分の目を疑った。 そこには、かつて「内臓を守るクッション」と言い訳していたお腹の肉が消え去り、きゅっと引き締まったウエストのラインが現れていた。 フェイスラインは驚くほどシャープになり、鎖骨が綺麗に浮き出ている。
体重計の数値はもちろん、体脂肪率が見たこともない数字を叩き出していた。
「私……本当に変われたんだ」
あの軽蔑に満ちた中年男の言葉を、今の真由は笑い飛ばすことができる。
「あの時は悔しかったけど、おかげでここまで来られたわ。最高のきっかけをありがとう!」
\本気で自分を変えたい、人生最後のダイエットにしたい/

お気に入りのセレクトショップへ行き、かつてなら絶対に試着すら諦めていた、一番目立つ場所に飾られたタイトなワンピースを手に取る。 試着室の鏡に映る自分は、どこからどう見ても、自分で自分を誇れる「理想の私」だった。

真由は、新しい服に身を包み、堂々と胸を張ってあの繁華街の歩道を歩き出した。
すれ違う人々が、今度はその変貌ぶりに思わず目を奪われている視線を感じながら。
\本気で自分を変えたい、人生最後のダイエットにしたい/


